有機農産物を食べることで、殺虫剤ネオニコチノイド注1)への曝露を低減できる

【背景】日本は、中国、韓国と並んで農薬の単位面積当たり使用量が最も多い国です注2)。浸透性と残効性が高いネオニコチノイドが1990年代より殺虫剤として使われ、現在では出荷量が年間400トンに及び、成人女性の尿からも検出されるようになりました注3)。ヨーロッパでは使用を禁止にしつつある中で注4)、日本では逆に残留基準がアメリカやヨーロッパのよりも緩いものとなっています注5)

【目的】子育て世代の一般市民が農薬を散布して育てた慣行食材(スーパーで購入)を食べた時、尿からどれほどのネオニコチノイドが検出されるか専門家注6)によって調べてもらいました。測定は0.1ppb(ppbは10億分の一)まで行いました。ついで、有機食材注7)を当会から無償提供して5日間食べてもらい、再度尿検査しました。

【結果】慣行食材を食べると、合計で5.0ppbのネオニコチノイドが尿から検出されました。検出されたのは、ジノテフランが2.7ppbと最も高く、次がアセタミプリド代謝産物注8)の1.6ppbでした。他のネオニコチノイドも人によっては検出されました。5日間有機食材を食べると、合計値が半分以下の2.3ppbに下がりました。1ヶ月食べ続けると0.3ppbにまで下がりました(下図)。日常から有機食材を生産して自らも食べている有機農業者も0.5ppbでした。

【まとめ】田畑で散布されたネオニコチノイドは食材に残留して我々の体にも入ってきます(暴露)。慣行食材を食べ続けると、お母さんの中で子供がまだ胎児の時から大人になるまで複数のネオニコチノイドに継続して暴露される続けることになります。ネオニコチノイドへの継続的な暴露を減らす「予防原則」に立って有機農産物を食べることが勧められます。そのためには、国内の有機農業を国をあげて推進し、農家が有機農業で生計を立てていけるように国が支援することで、消費者も容易に有機食材を入手できるようにすることです。

注1)アセタミプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメキトサム、ニテンピラムとアセタミプリド代謝産物の測定を行いました。

注2)水野玲子(2018)「増補改訂版 知らずに食べていませんか? ネオニコチノイド」高文研、26ページ

注3)Ueyama, J. and others ”Temporal Levels of Urinary Neonicotinoid and Dialkylphosphate Concent -rations in Japanese Women Between 1994 and 2011.” Environmental Science and Technology. 49, 14522−14528. (右図)

年次

注4)Nature ダイジェスト(2016)「ネオニコチノイド系農薬とハチ減少に新たな証拠」Vol. 13, No.10.

注5)水野玲子(前出)、24ページ

注6)北海道大学獣医学部毒性学教室

注7)お米、野菜、卵、豚肉、糀、味噌などを提供

注8)アセタミプリド代謝産物:アセタミプリドは人体で他の化合物に代謝されることが分かっているので、代謝産物の測定も行います。

【問い合わせ】

福島県有機農業ネットワーク 長谷川(担当)

info@fukushima-yuuki.net、携帯 090-6226-9612

【謝辞】

本調査研究は、本会がアクトビヨンドトラスト様からの助成を得て、北海道大学獣医学部毒性学教室と連携して行いました。地元の子育て世代の家族、有機農業を実践している家族、合計で70名以上から尿検査に協力してもらい、集まった1,000を超える検体のうち330検体の分析結果です。この場を借りて感謝いたします。

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有機農産物を食べることで、殺虫剤ネオニコチノイド注1)への曝露を低減できる” に対して7件のコメントがあります。

  1. みみず より:

    ありがとうございます。
    最後に「集まった1,000を超える検体のうち330検体の分析結果です。」とありますが、この部分の意味がよくわかりませんでした。
    残りの670検体は分析しなかったということでしょうか?

    1. 長谷川浩(理事) より:

      お問い合わせありがとうございます。1,000検体の分析には時間がかかり、昨年度中に終わることができませんでした。助成金をいただいている都合上、中間の取りまとめを行いました。残りの検体も分析して、国際的な科学雑誌(英語)に投稿を予定しています。

  2. 佐藤淳 より:

    facebookにアカウント登録しているのですが、あまり使用しておらず、Twitterをメインに使用しているものです。facebookだけでなく、Twitterでも情報発信していただけると嬉しいです。

  3. 松原浩吉 より:

    農薬が体内に残留する。腸内細菌叢にも残留すれば健康被害が大きいと思います。有機食材の大事さが大きくなります。これからも安全な食材作りをお願いします。

    1. 長谷川浩(理事) より:

      コメントありがとうございました。励みに頑張ります。

  4. 久保田裕子 より:

    朝日新聞7月1日に掲載された「有機食材続ければ体内の農薬大幅減」は、この調査ですか。
    報告書とか、ペーパーがあれば、おしらせねがいます。

    1. 長谷川浩(理事) より:

      久保田さん 気づくの遅れてすみません。メールでもお伝えしたように、学会誌に投稿されるのはまだ先になるので、ペーパーはまだありません。

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